妹は生まれつき左脳がない。
生まれた時はまともに歩くことも、
普通の学校に行くことも不可能だと、諦めてくださいと言われた。
しかし、人生とは常に予期せぬことが起きるもので、
今の妹は元気に歩き、普通の小中高を卒業し、OLをしている。
人一倍努力家で負けず嫌いな妹は、
血のにじむような努力で、普通の子と同じように生活を送れるようになった。
そればかりか、高校2年の春、1学期の中間テストで学年2位の成績を収めた。
「他の人より努力が必要なら自分はその倍以上努力すればいい」を体現する妹に、
いつしか尊敬の念を抱くようになったのは、ごく自然なことだったのかもしれない。
そんな妹が、私の家に来た時のこと。
私のPCに映るFF14の画面を見て、
「めっちゃきれいだね、私もやってみたい。」とつぶやいた。
妹がやっているゲームといえば、どうぶつの森くらいしか知らなかった私は目から鱗だった。
こういうゲームに興味があったのかと。
私は次の日、あわてて中古のPS4を近所のゲオに買いに行き、妹の家で設定をした。
「そんなにすぐ来ると思わんかったよw」
そう笑われたが、嬉しくてしかたがなかった私は半ば興奮気味に、
「まぁまぁ、いいじゃない」と設定を進めた。
一通りの設定を終え、いよいよキャラクター作成。
妹が選んだのはエレゼン、あーでもないこーでもないと言いながら1時間以上掛かったのを見ていて、
やっぱり兄妹だなと、ちょっと微笑ましかった。
しかし、簡単な説明を終え、いざ町の外に出て戦闘を開始しようとした時気付いた。
コントローラーは両手で持っているものの、右手でボタンを押すのが難しく、
R2は辛うじて抑えれるが、一緒に〇△□×のボタンが押せないのである。
クロスホットバーが使えない。
困ったことになった。
もちろんマウスは左手、キーボードも左手だけで打っている妹のことだ。
クロスホットバー以外にする選択肢は無かった。
でも…こんなことで、このゲーム難しいからやめたなんてことになったら悲しすぎる…。
そう思ったが今後のことも考えた結果、これからスキルも増えていき、
最低でもホットバー2枚(32個)分は使うことになるとを妹に伝えた。
「じゃあ私は1枚で8個しか使えないから4枚使えば解決するね」
そうだった。
妹の左手は右手の役割も担っているため、人並み外れて器用になっていた。
これまでも人とは違う方法であらゆることをなんとかしてきた妹だった。
たかがこれくらいのことで諦める妹ではなかった。
ホットバーの左側(矢印キー)だけを使い、淡々と敵を倒していく。
本当に器用なもので、移動をしながら普通に戦闘をしていた姿をみて感動してしまった。
家族をエオルゼアの世界に招待し、一緒に冒険をすることが
こんなにも楽しくて、誰かに伝えたくなるものだとは思いもしなかった。
ここから、妹との冒険が始まる。
つづく。